最後の客がクラブを出たのは、午前二時だった。ジューンは長い黒いグローブを着け、路地へ出た。古い煉瓦の壁を背に、衣装の赤が、曲の最後の音のように光っていた。
帰るはずだった。それなのに彼女は、屋上から聞こえるトランペットを追っていた。若い奏者が、壊れたスピーカーの横に立っている。観客は、衛星アンテナだけだった。
「公演が中止になったんだ」。彼の言葉を聞き、ジューンは眠る街を見渡した。そしてクラブの裏口を開けた。十分後、音楽が通りへこぼれ始めた。ひとつ、またひとつと窓が灯る。誰かがコーヒーを運び、誰かが踊り始めた。
日の出には、路地はまた空になっていた。それでも街は、少し変わっていた。ジューンは鍵をかけ、家へ向かった。ヒロインのすべてに、任務の説明が必要なわけではない。灯りを消さないほうがいい瞬間を、知っているだけでいい夜もある。
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