街に残された暗闇は、あと一時間。古い天文台の屋上で、マラは深紅のコルセットの最後の銀色のバックルを留めた。眼下の川には、無数の窓の光が揺れている。そのひとつに、必ず連れ帰ると約束した人がいた。
無線が小さく鳴った。「橋は封鎖された」。マラは橋の下に続く細い保守用通路へ目を向けた。「なら、遠回りで行こう」。勇気とは何も感じないことではない。震える手を見つめ、それでも進むと決めることだと、彼女は知っていた。
横切るサーチライトが、衣装の赤いパネルを照らした。一瞬、彼女の姿が街の輪郭に浮かび上がる。マラは腕を上げ、背後を渡る仲間たちから視線をそらした。街には脅威に見えたそのシルエットが、仲間には約束のしるしだった。
朝の光が川に届いたころ、天文台の鐘が何年ぶりかに鳴った。対岸に立つマラの任務は終わっていた。彼女がここへ来たのは、街を支配するためではない。誰かに、帰る道を取り戻すためだった。
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